茨城新聞創刊130周年
いばらき
防災キャンペーン2021
自然災害伝承碑を訪ねて ㊦
日本列島は度々大きな災害に見舞われ、風水害や地震、噴火などその傷跡を記した碑が全国各地にある。国土地理院では過去の自然災害の場所や教訓を伝えようと、そうした碑を自然災害伝承碑として登録し公開している。公開数は今年3月29日現在、全国で898基、このうち県内は8市町で25基。内訳は北茨城市6基、大子町3基、常陸太田市1基、常陸大宮市1基、水戸市4基、行方市1基、龍ケ崎市3基、常総市6基で、洪水や大震災の碑となっている。県内の自然災害伝承碑を訪ねてみた。
◎昭和16年の水害
 1941(昭和16)年7月は2度大きな水害があった。7月10日から12日かけ台風の影響を受けた梅雨前線による大雨となり、小貝川が決壊。さらに22日夜から23日にかけて台風が県内を直撃した。24日付いはらき(茨城新聞)夕刊は1面トップで「県下の河川は未曾有の氾濫となり、冠水田畑、浸水家屋は夥しい数に上り、昭和十三年の大水害被害を凌駕する勢い」と報じた。
 23日午後7時ごろ、現在の龍ケ崎市川原代町で小貝川が決壊。堤防の役割もしていた常磐線の盛土や線路が流され一帯は大洪水に。伝承碑は常磐線沿いに「決潰口の跡」と「要石建立由来之碑」がある。要石の碑には「家屋と共に流される者木によじ登り或いは波浪に呑れ」「惨害を繰返さぬよう渡良瀬川上流桐生市地先河畔より由緒ある石を採取要石と銘名建立」と由来が記されている。
 この水害は昭和13年の水害を記した常陸大宮市の「築堤記念碑」と常総市の「大洪水位記録碑」にも記載がある。被害は全県で死者6人、流失家屋292戸、全壊150戸、床上浸水23787戸。戦後、1947(昭和22)年9月のカスリーン台風、48(昭和23)年9月のアイオン台風、49(昭和24)年9月のキティ台風など大きな被害が続いた。
◎昭和56、61年の水害
 1981(昭和56)年8月は関東地方を直撃した台風による暴風雨で増水した小貝川が龍ケ崎市川原代町で決壊した。濁流は利根町まで及び、伝承碑「決壊口の跡」が堤防沿いに立つ。
 鬼怒川と小貝川に挟まれ洪水被害に遭ってきた常総市本豊田の小貝川堤防にも「決壊口の跡」の碑がある。1986(昭和61)年8月、台風やその後低気圧の影響で県内は記録的大雨に。河川の氾濫が相次ぎ、小貝川も決壊。全県で4人が死亡、全壊8戸、床上浸水6980戸に上った。
決潰口の跡 龍ケ崎市川原代町 常磐線沿い
要石建立由来之碑 龍ケ崎市川原代町 常磐線沿い
決壊口の跡 龍ケ崎市川原代町 小貝川沿い
決壊口の跡 常総市本豊田 小貝川沿い
東日本大震災
 千年に1度の大災害と言われた東日本大震災。マグニチュード9・0、最大震度7を記録し、地震や津波による死者、行方不明者は関連死を含め全国で約2万2千人に上った。県内も多大な被害を受け、死者24人、行方不明1人、関連死42人、全半壊した住宅は2万7691戸(今年3月1日現在)を数えた。県内の最大震度は6強、最大の津波の高さは北茨城で推定6・9㍍だった。
 死者5人、行方不明1人と尊い命を奪われた北茨城市では、今年3月、自然災害伝承碑6基が登録された。内訳は平潟漁港(同市平潟町)に2基、五浦岬公園(同市大津町)に1基、大津漁港に離接する市漁業歴史資料館(同市関南町仁井田)付近に2基、市防災コミュニティセンター(同市磯原町磯原)に1基。このうち平潟町、関南町、磯原町の各1基は波の形をしており、各地区を襲った津波の高さが記されている。平潟漁港には市の魚で県石材業協同組合連合会から寄贈されたアンコウをかたどった石碑、五浦岬公園には祈りの碑、関南町には復興への願いを込めて市社協大津支部が建立した「TOMORROW(トゥモロー)」祈念碑がある。トゥモローは大津町福祉基金を充てて造られ、正面に「明日への祈念」、裏面には市立大津小6年生による「世界の絆―命にありがとう―」と題した詩が刻まれている。
鮟鱇 北茨城市平潟町 平潟漁港
TOMORROW 北茨城市関南町仁井田 漁業歴史資料館近く
東日本大震災記録碑 北茨城市平潟町 平潟漁港
東日本大震災記録碑 北茨城市関南町仁井田 仁井田浜公園
東日本大震災記録碑 北茨城市磯原町磯原 防災コミュニティセンター
祈りの碑 北茨城市大津町 五浦岬公園
水害復興の碑 常総市本石下 鬼怒川沿い
決壊の跡 常総市三坂町 鬼怒川沿い
関東東北豪雨実績浸水深碑 常総市水海道諏訪町 市役所
関東・東北豪雨
 2015(平成27)年9月9日から11日にかけ、台風や台風から変わった低気圧の影響で、県内も激しい雨に見舞われた。多数の線状降水帯による集中豪雨となり、10日に常総市若宮戸で鬼怒川が溢水、同市三坂町で堤防が決壊した。下流域の水海道地区まで濁流にのみ込まれ、市域3分の1が浸水。死者3人、全半壊5596戸に上った。
 自然災害伝承碑は溢水した地域の堤防に「水害復興の碑」、決壊した場所に「決壊の跡」の碑がそれぞれ立つ。この洪水で浸水被害を受けた常総市役所水海道庁舎の駐車場には、市役所の石碑反対面に「自然と共に歩む」と記し、当時の浸水深の横線が描かれている。
 県内では近年、2019(令和元)年10月の台風19号による豪雨で那珂川や久慈川などが氾濫し大きな被害を受け、被害は死者2人、行方不明1人、全半壊家屋1736戸。大子町で水郡線は鉄橋が流され復旧まで1年5カ月にわたり運休した。
 
(茨城新聞社常務取締役・井坂幸雄)

水害復興の碑 常総市本石下 鬼怒川沿い
決壊の跡 常総市三坂町 鬼怒川沿い
関東東北豪雨実績浸水深碑 常総市水海道諏訪町 市役所

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